
高校を卒業した俺と名雪は、地元で社会人として働くようになっていた。
勤務先が違うからなかなか会えないが、それでも暇を作ってはデートを重ねた。
忙しいが充実した毎日。
ある夜、どちらからともなく切り出したプロポーズ。
秋子さんに二人の気持ちを伝えると、喜んで賛同してくれた。
高校時代、水瀬家に居候になったのは、2年生の3学期だけだった。
3年からは、こちらに越して来た両親と過ごした。
親の干渉がうとましくて、社会人になってからは一人暮らしを始めていた。
結婚後は、名雪と二人で新居を構えようと考えていた。
しかし、名雪と秋子さんの勧めもあって、
わずか3ヶ月ばかり世話になった水瀬家に舞い戻ることになった。
幸福な毎日だった。
平凡だからこそ大切な日々。
失いたくない瞬間。
きらめく季節。
俺は、いつまでも、ありふれた幸せに満ちた日々を送れるものだと思っていた。
そう、この時は……。
始めは順調だった結婚生活も、徐々に陰りが見え始めた。
社内での地位が高まり、残業が増した俺は、
夜遅く帰ることが当たり前になった。
名雪も、後輩の面倒やら雑務で不規則な毎日。
お互い顔を合わせる時間が減るどころか、
朝食さえも一緒に採ることはなくなった。
すれ違う二人。
秋子さんも気をつかってか、あえてそのことには触れなかったが、
俺たちの仲を心配しているのは明らかだった。
なんとか努力はした。
無理に休みを取って二人の時間を作ろうとしたが、
深まる溝を埋めることは出来なかった。
そしていつしか、二人の間には、会話さえなくなっていた……。
その夜は残業もなく、久しぶりに早く帰宅できた。
秋子さんが温かいシチューで迎えてくれたが、そこに名雪の姿はなかった。
夕食を平らげ、寝室のベッドにうつ伏せになる。
目覚し時計の横に立て掛けられた一枚の写真が、やけに寂しさをかきたてる。
黒いタキシードに身を包んだ俺と、純白のドレスで着飾った名雪。
そう、教会で挙げた結婚式の写真だ。
今では信じられないほど幸福な笑顔。
あのとき、二人の仲がここまで冷え切ろうとは、誰が想像できたか。
窓から射し込む月光が、思い出の詰まった部屋を照らす。
激しい慟哭。
言いようのない不安。
名雪を想うたびに、胸が締め付けられる。
二人で手を取り合って過ごしたあの日々は、もう取り戻せないのだろうか。
自責の念が俺をさいなむ。
コンコンコン
電灯も点けない寝室に、ドアのノックが響いた。
「……祐一さん、私です」
薄いドア越しに聞こえた声は、秋子さんのものだった。
「……お話、いいですか?」
ドアのそばにあるスイッチを押し、電灯を点けると、秋子さんを部屋に招き入れた。
「どうしたんです? 深刻そうな顔して」
「……名雪のことでお話したくて」
いつも以上に真剣な表情に、思わず身構える。
ベッドの縁に腰掛け、秋子さんの話を待つ。
「もう、駄目なんですか?」
秋子さんは唐突に切り出した。
「なにがです」
秋子さんの言わんとしてる事は分かっていた。
しかし、その問いに答えるだけの勇気がなかった。
「名雪とはもう、仲直りできないんですか?」
「仲直りとかそういう次元の問題じゃないんですよ、俺と名雪は。もう無理でしょう」
「だけど、愛し合って結婚したのにこんなことになるなんて、あんまりです」
「男女の仲なんて、所詮はそんなもんでしょ」
「祐一さんは、それで良いんですか?」
……良いわけない。
出来ることなら、名雪の笑顔をもう一度、いや何度でも見たい。
けれど……。
「終わってるんですよ、俺たちは」
「そんな……」
自分でも驚くほど、冷たい言葉が堰を切ったように出てくる。
そうすることで、自分が傷つくことを避けられるからだろう。
自分を偽るたびに、慟哭が激しくなる。
刻々と脈打つ心臓が熱くなる。
「本当のことを言えば、俺だって、まだ名雪を愛してます。
抱きしめたい。つまらないことで笑い合いたい。
だけど、だけど……」
「祐一さん……」
耐え切れなくなり、今まで溜め込んだ想いを一気に吐き出す。
次の瞬間、俺は、自分でも信じられない行動に出た。
「きゃああ!」
秋子の手を取り、白いシーツが敷かれたベッドに押し倒した。
「ど、どうしたんですか? 祐一さん」
驚きのあまり、ろれつがうまく回らない秋子。
ただならぬ気配を感じ取ったのか、秋子の顔は、いくらか恐怖で歪んだ。
「秋子さん、俺……」
「や、やめてください……」
事情を察したのか、押さえつけられた腕を激しくうねらせ、身体を起こそうとする。
しかし、俺の力に抗するには、あまりにも非力だった。
「い、いや……」
許しを請う涙混じりの声が、背徳感と官能をくすぐる。
秋子の唇に、俺のそれを重ねる。
「んん……」
かつて味わっていた名雪の唇ほど柔らかくはないが、俺の興奮を高めるには十分だった。
嫌がる秋子の顔を押さえつけ、舌を差し込む。
舌が絡み合うたび、秋子は身体をくねらす。
唇を離し、息を軽く吸い込むと、秋子の服をまくし上げた。
白い上品なブラに収められた、張りのある乳房があらわになる。
「ダメ、祐一さん……」
もはや俺の耳には、秋子の声など届いていなかった。
ブラを上にずらすと、桜色の乳輪と突起があらわになる。
乳房を両手でつかみ、丹念に感触を味わう。
手の平の動きに合わせ、秋子が喘ぐ。
乳房の頂を口に含み、桜色の乳首をむさぼる。
舌の先で転がすと、秋子の喘ぎがいっそう激しくなる。
秋子の乳房に飽きると、スカートと下着を素早く下ろす。
どうやら、もはや秋子に抵抗する意思は無いようだ。
両足を広げると、糸を引く、きらめく精液があふれていた。
舌ですくい上げると、秋子の呼吸が荒くなってゆく。
「祐一さん、来て……」
中腰になってズボンを下ろす。
そそり立ったペニスの先からは、わずかばかり精子が漏れていた。
秋子にあてがい、一気に差し込む。
「あああん」
秋子は背中を反らせ、頬をさらに高揚させる。
しまりの良さは、秋子の経験の少なさを物語っていた。
腰の反復運動を始めると、全身を巡る血液がペニスに集まり、さらに膨張させる。
秋子の官能的な喘ぎと、ペニスを包む感触が、射精感を高める。
寸前で引き抜き、高揚した秋子の顔に射精した。
秋子の隣に横たわり、疲れきった身体を休ませる。
興奮が治まらないのか、秋子は、しばらく呼吸が落ち着かなかった。
不意に訪れる後悔。
俺は、とんでもない過ちを犯したんじゃないだろうか。
名雪の笑顔がちらつく。
秋子さんはそんな俺を気遣うかのように、俺の顔を覗き込む。
「後悔……してますか?」
「……少しだけ」
交わりの後に交わした言葉は、それっきり途絶えた。
破局の訪れは、突然だった。
俺はその夜も、名雪の目を盗んで秋子を抱いていた。
しかし、運命の悪戯か、居ないはずの名雪が、寝室のドアの前で、呆然と立ち尽くしていた。
仕事が速く片付いたのだろう。
裸で抱き合う俺と秋子。
名雪の瞳から、急速に光が失われてゆく。
いくら愛情が失せたとはいえ、仮にも夫である男が、自分の母を抱いているのだ。
誰も、言葉を発することはできなかった……。
慰謝料は、500万で合意した。
払えない額じゃない。
金で償えるとは思っていないが、失われた時は、もう取り戻せないのだ。
荷物は、引越し先のアパートに送ってある。
あとは、この水瀬家を去るだけだ。
「祐一さん、お元気で……」
「秋子さんこそ」
別れの言葉。
しかしそこに、名雪の姿はなかった。
「さようなら」
季節は冬。
玄関のドアを開けると、木枯らしが吹き込む。
ジャンパーのポケットに手を突っ込み、体温を逃がさないよう身体を丸める。
視界を、白く冷たい粒が舞う。
空を見上げれば、雪を降らせる暗い雲。
「そういえば、名雪と再開したのも、こんな天気の日だったな」
思えば、幼いときも名雪を裏切った。
名雪の気持ちも考えず、冷たくあたってしまった。
あのときの秋子さんの事故を乗り越え、俺たちは過去を断ち切った。
けれど、今度ばかりはそうはいかなかった。
何がいけなかったのだろう。
今となっては分からない。
この街で生まれた名雪との思い出が、脳を駆け巡る。
楽しい思い出、つらい思い出……。
そのどれもが、大切な宝物。
俺と名雪が共有した時間は、間違いなんかじゃなかった。
そうだと信じたい。
振り返ると、屋根に雪を積もらせた水瀬家に一礼し、俺は新たな一歩を踏みしめた。
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